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栗原 久雄さん CMT友の会 役員

CMT(シャルコー・マリー・トゥース病)は、原因遺伝子により末梢神経に異常が起こり、手足の運動と感覚が徐々に障がいされていく、遺伝性の進行性神経疾患である。思春期から青年期に発症することが多いが、小児での発症もみられる。原因となる遺伝子が次々と発見され、複数のタイプに分けられることがわかってきたが、完治させる治療法や進行を遅らせる治療法は確立していない。

看護学科や製薬企業で患者講師を経験

私がCMTを発症したのは2007年頃でした。治療法もなく、情報も少ない中で、インターネットを通じて出会った仲間たちと「CMT友の会」を立ち上げ、VHO-netともかかわるようになりました。VHO-netを通じて知り合った松下年子さん(当時・埼玉医科大学 教授、現・横浜市立大学 教授)に、埼玉医科大学看護学科での患者講師を依頼され、2010年から毎年、「病むことの心理」という講義を行ってきました。

またファイザー株式会社の社内研修会での講演も経験しました。直近では、羽田明さん(千葉大学大学院 教授)の依頼で「日本人類遺伝学会遺伝医学セミナー」で300人を超える医療者を対象に講演を行いました。遺伝性のため、生まれた時から、いずれは難病が発症するということが決まっていて、自分の力では運命を変えられないという、残酷さと悔しさとやるせない気持ちを抱えて生きてきたということを伝えました。

自分の体験談を中心にさまざまな患者像も伝える

患者講師を引き受けた時は構成を考え、タイトルと写真などを掲載した数枚のスライドを作りますが、全体を文章化することはせず、語る練習もしません。自分の仕事の経験から人前で話すことには比較的慣れているので、流れに沿いながらその時の思いで語っていくスタイルをとっています。その場の雰囲気や聴く側の反応を見ながら、話題を変えたり時間を調整したりすることもあります。基本は私の体験談ですが、さまざまな患者像を知ってほしいので、個人情報に注意しながら、結婚や出産についての女性患者の悩みや、子どもの時に発症した人の思いなども紹介します。

看護学科の講義では、緊張感をもって聴いてもらうために、最初に、患者の思いをしっかり受け止めてほしいとはっきり伝えるようにしています。また治療法のない難病の患者は、痛みやつらさを抱えながら一生生きていかなければならないこと、だからこそ患者団体が果たす役割が重要であることを強調します。「発病当初は必死で病気と闘ったが、次第に病気とともに生きていくしかないと思うようになった」という話は、看護学生にとってはとても印象的であるようです。将来、医療者となる人たちに、「病気は治すもの、闘うもの」という発想だけでなく、「病気とともに生きる」患者がいることをぜひ知ってほしいと考えています。

準備や反省に時間をかけず引き受けやすくしておく

伝えるためのコツ…・最初に患者講師としての思いを伝えて、緊張感を与える・聴く側の反応に合わせて、内容や時間の配分を調整する・引き受けやすいように、準備や反省に時間をかけ過ぎない講演後のレポートを読んで、自分の思いが伝わっていると感動しますし、話を聴いた学生たちの変化を聞いてうれしく思うこともありますが、自分自身の語りについてはあまり振り返らないことにしています。というのも、自分では良くなかったと思っても意外に好評であったことや、あるいはその逆のこともあったので、反省には時間を費やさないことにしたのです。

私は、病気によって仕事の面でも過酷な経験をしてどん底状態にもなりましたが、慢性疼痛に効く薬によって痛みがとれ、リハビリや空手にも取り組むなど前向きになることができました。また患者団体を通じて多くの人と出会い、助けられてきました。その恩返しの意味もあり、必要とされている時にはなるべく応えたいと考えて患者講師も引き受けています。今は仕事も忙しく、あまり負担が重くなると対応しにくくなるので、あえて準備や反省にはあまり時間をかけず、依頼に応えやすいようにしておきたいと考えています。

私の病気は父からの遺伝で、亡くなった父に対してはとても複雑な思いがありました。しかし今回、遺伝に関する講演のテーマを考える中で、父のつらさや苦しさに思いを馳せることもできるようになりました。父に対して、今までとは異なる感情が芽生えてきたように思います。患者講師を引き受けることで、自分自身が成長できることもあるのかなと感じているところです。