<患者の力>

患者は安静にしていることが良いのか?

慶應義塾大学看護医療学部
教授 加藤 眞三 さん

病気と安静

 病気であると言われたとき、先ず思い浮かべるのが「安静にしていなくてはいけない」「あまり身体を動かさないようにしなければ」ではないでしょうか?身体に無理をかけず病から回復するためには安静が必要と考えている方は多いものです。

 患者さんが自分自身そう考えているだけではなく、家庭や職場など周りの人からも、安静にさせようとする圧力があります。「あなたは、病人だからそんなことしなくていいのよ。私が代わりにやってあげる」「そんな役を引き受けなくていいんじゃない。あなたは病人なんだから」。病人は先ずは栄養になるものを十分にとって、安静にすることが大切。そんな思いが支配的です。

 医師・看護師など医療者でさえも、この「安静第一」の考えから抜け出せていない人もいます。病人に対して「安静に」と言っておけば常識的で間違いがないと考え、「お大事に」といって安静にすることを奨めます。

肝臓病患者には「高タンパク・高カロリー食」と「安静」を?

 しかし、それは本当に正しいのでしょうか? 1990年代初め、わたしは肝臓病患者でそんな考えに疑問を持ちはじめました。肝臓病では、昔から「高タンパク・高カロリー食」と「安静」が強調されてきましたが、それをしっかり実行すれば必ず肥満になり、脂肪肝をきたします。当時、すでに肥満と脂肪肝は大きな問題となってきており、肝炎ウイルスやアルコール性の肝臓病患者でも肥満が目立ってきていました。1997年の論文で、アルコール性肝障害では肥満が病気の進展因子になると報告され、その後、C型やB型肝炎でも肥満は肝炎を進展させ、線維化を促し、発がんをきたしやすいなどの報告が続きました。

 当時、慢性病ではエアロビックな運動は健康に良いことが言われ始めており、わたしは肝臓病患者にも「適正エネルギー・バランス食」と「適度な運動」を推奨しました。慶應義塾大学病院のスポーツクリニックで運動指導をしてもらいましたが、その後に肝機能が悪化することはなく、むしろ、ある程度の改善がみられました。さらに、患者さんの顔色が良くなり、生き生きとした表情になってきました。それまで、身体を動かしたくても安静が良いと言われて運動を控えていた患者さんが、運動できるということでうれしかったためかもしれません。

運動指導とQOL(Quality of Life;いのち(生)の質)

 患者さんに対する質問紙法によるQOLの測定でも、多くの項目で改善がみられました。中でも注目すべきは「身体的理由による社会的役割の制限」、「精神的理由による社会的役割の制限」で大きな改善効果があったことでした。わたしたちが普段「病人には安静を」が正しいと思い込み、何気なく口にすることによって、患者さんは縮こまり思考になり、自分の行動や社会的役割に制限をかけてしまい、QOLを低下させていたのだと解釈できます。

 本来、人間は身体を動かすことにより健康を保っています。そして、他人との関係性の中で社会的役割を持つことが幸せにつながる、社会的な生き物です。ですから、病気になっても安静にすることばかりを強調するのではなく、どの程度の運動ならしても良いかの方が大事なのです。とくに、長期間病気を抱えていくことになる慢性病の患者さんでは、その意義は大きいのです。

慢性病の時代に対処した医療

 昔と今では、病気そのもののあり方が異なっています。ひと昔前、急性病や感染症が医療の中の大きな部分を占めていましたが、現在は、慢性病が主要な病気になってきています。急性病であれば、治るまで安静にするということでも大きな問題はありませんが、慢性病は長期間あるいは一生の間抱えていく病気です。長期間安静にしていると筋肉量が落ち、筋肉量の低下は生活の質を下げ、免疫力の低下などにもつながります。

 慢性病の代表であるメタボリック症候群は、肥満、高血圧、脂質異常、糖尿病が重なったものであり、心臓病や脳卒中といった死因につながります。運動不足や栄養過剰摂取などの生活習慣がもたらした病気であり、安静より運動が良いことに異論はありません。もちろん、心筋梗塞や脳卒中など急性病が重なった場合には、一定期間の安静が求められる場合はあります。

 わが国で、死因の第1位であり3分の1を占めるがんにおいても、発症予防や治療後の再発予防に運動が推奨されています。手術や化学療法などの治療前にも、むしろ運動をして体力をつけるなど準備しておいた方が良く、治療後の回復時期にも適度な運動は回復を促します。さらに、終末期における緩和医療においても、運動はQOLの維持などに役立ちます。

 高齢者でも筋力を保ち筋肉量を維持することは、転倒防止などの面からも役立ちます。認知症の予防にも、運動療法が役立つことがわかってきています。さらに、最近10年間、職場ではうつ病の増加が大きな問題になってきています。運動している人ではうつ病の発症リスクが低いこと、有酸素運動が軽症から中等症までのうつ病に有効であることなどが報告されています。難病や希少疾患についての運動療法は、まだその研究は少ないのですが、可能な範囲内で運動することは、少なくともQOL(いのち(生)の質)から考えても良いものと考えられます。

持続できる運動をめざす

 このように、現代社会では多くの病気や状況で「病気になれば安静にするのではなく、運動を励行すること」が求められているのです。しかし、過度な運動が良くないことも確かです。また、不安定狭心症や不整脈、不安定な血圧、重い心不全など心臓の病気や重症の整形外科の病気、急性病などでは運動を積極的に奨められません。

 どの程度の運動が望ましいのか?有酸素運動の範囲内であれば多くの慢性病で問題がないことがわかってきています。その強度は心拍数を目処に決めます(1)。また、自覚的な症状として、運動を終えた後に快い疲労感があること、運動をした日の翌朝に疲れを持ち越していないことも重要な目安となります。

 また、しばらく身体を動かしていない人では、いきなり強い運動を始めず、徐々に運動を増やしていくことで、上記の自覚症状から適度な運動量の目安を知ることができます。疲れているなと思うときには休んだり、短く切り上げたりすることをためらわないで下さい。なによりも、運動を継続できることが大切なのですから。

 どのような運動が良いのでしょうか。歩行や水泳、プール歩行などは多くの患者さんで問題がありません。ジョギングではやりすぎになってしまうことが心配です。また、普段健康な人や慢性病でも軽い人ではテニスなどのスポーツもお奨めです。死亡率をもっとも下げることが報告されています。

運動を持続するための3要素

 運動を持続して行う上で大事なことは、
①自律性(誰かに言われてやるのではなく自分 から興味を持ちやりたいと思うこと)
②有能感(やっている間に進歩や成し遂げた感じ が得られること)
③社会的関係性(他者との関係性が創れること)
の基本的欲求を満たしていることだと言われています(2)。この3つの要素を満たす運動なら持続しやすいし、健康にも良いのです。テニスが良いのは、おそらくこれらの要素を満たしやすく、持続して無理のない範囲で続けられるためでしょう。

 この3要素は患者会を持続して運営していく上でも大切な事項ではないかと思います。これらによって患者の力はより発揮していけるのではないでしょうか。

加藤 眞三 さん プロフィール

1980年慶應義塾大学医学部卒業。
1985年同大学大学院医学研究科修了、医学博士。1985〜1988年、米国ニューヨーク市立大学マウントサイナイ医学部研究員。その後、都立広尾病院内科医長、慶應義塾大学医学部内科学専任講師(消化器内科)を経て、現在、慶應義塾大学看護医療学部教授(慢性期病態学、終末期病態学担当)。
■著 書
『患者の力 患者学で見つけた医療の新しい姿』(春秋社 2014年)
『患者の生き方 よりよい医療と人生の「患者学」のすすめ』(春秋社 2004年)
※参考図書
(1)雑誌「治療」 特集 内科疾患のリハビリテーション 南山堂 2017年5月号
(2)勝川史憲 運動継続と内発的動機づけ プラクティス 医歯薬出版 2017年 34巻3号 291-3