<社会学からみたピアサポート>

ピア・サポートのいまとこれから

この連載も今回で最終回を迎えました。これまで、ピア・サポートを「物語」というキーワードを通してみてきましたが、それによって「ピア・サポート」の中心となるべき課題が明確になったのではないかと思います。すなわち、元通りの自分に戻る筋をもつ「回復の物語」とは別の物語を模索せざるをえないプロセスに、物語の「聞き手」として、どうかかわっていくか。そこにこそピア・サポートの原点があります。

ここで改めて「物語」というキーワードを用いるメリットを整理してみましょう。もっとも大きいのは、「物語」という言葉を用いることで、「誰が主人公か」を常に意識しやすい、という点です。「ピア・サポーター」という言葉には、どうしても「助ける者」というイメージがつきまといます。そのようなイメージが強すぎると、サポートする側が何かを一方的に「与え」なければならない、という考えにとらわれる危険があります。また、その結果、「自分が行ったサポートに対して、目に見える成果がないと不安だ」と思ってしまったり、あるいは、来談者(サポートされる側)のことを一生懸命考えすぎて、いつの間にか、他人の問題と自分自身の問題との区別がつかないような感覚になってしまったりする(いわゆる「抱え込み」)危険もあるでしょう。そのような危険を避けるには、むしろ「物語の主人公はあくまで本人(来談者)なのだから、最終的には本人次第だよ」というぐらいに(よい意味で)クールに感じているぐらいが、ちょうどよいかもしれません。このような点に、「物語」という言葉のメリット(認識利得)があると考えられます。

さて、連載を閉じるにあたって、最後に、ピア・サポートに関して今後重要になってくるかもしれないと私が最近感じていることをふたつほど述べてみたいと思います。
ひとつは、ピア・サポートにおける個人的側面と社会運動的側面とのバランス(もしくは両立)です。1960年代から1970年代にかけて、高度経済成長の陰の部分として、薬害や公害病が大きな社会問題としてクローズアップされました。当時、そうした問題に直面した人を公的に救済する手段は極めて乏しかったので、患者たちにとっては、自分たちに害を及ぼしながら何ら救済しようとしない社会への怒りを示し、異議申し立てに参加すること自体が、自分自身を支えるモチベーションにも直ちにつながったと考えられます。しかし、時代は進み、1972年に制定された「難病対策要綱」に端を発する政策的な難病対策や、障害者福祉及び介護保険等の制度の整備、がん対策の推進等々、公的な支援は、決して十分とはいえないながらも、ある程度は前進・充実してきました。それにともなって、社会的支援の内実を冷静に評価しながら、いかに足りない部分を見つけ改善につなげていくかという観点が中心になっていきます。そうしたプロセスに対して、患者自身も「蚊帳の外」にいてよいわけではないかもしれない。このように考えると、これからの時代と社会においては、患者は「社会に抗議することを通して自分を保つ」というよりも、むしろ「まずは(既にある)支援を活かしながら自分を(個別的に)立て直す」ことに専念し、しかしやがて個々の事情と余裕の許す範囲で社会的な問題にも関心を広げていく、という仕方のほうが自然だと考えられます。
現在、少なくない患者会で、世代ギャップが感じられているように見受けられます。「最近の人たちは運動に無関心になった」とか「個人主義化した」などと嘆く声も耳にします。しかし、大切なことは、社会的な状況が変わっていることを冷静に受け止めながら、個人的関心も社会への関心も〈共に〉担保するピア・サポートのあり方を模索していくことではないかと思います。

もうひとつ、今後のピア・サポートにおける課題として、メディアの活用(と限界を知ること)が挙げられます。1990年代から、「情報化社会」の到来と呼ばれる環境の変化がおこり、携帯電話や(ワープロに代わる)パソコンなどの普及によって、インターネットの活用が急速に進みました。さらに、21世紀に入ってからは、普及したインターネットをベースにして人々がつながりコミュニケートする場、すなわち(ツイッターやフェイスブックなどを含む)ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が発達してきています。これらコミュニケーションの場は、遠隔地にいたり移動が困難であったりする人々を結びつける点で、ピア・サポートを促進する可能性を秘めています。その一方で、それらSNSは、それぞれ「癖」(あるいは、特徴)のあるコミュニケーション・スタイルを人々に暗に求めていくところがあることも(明確に整理されているわけではないが)うすうす気づかれる状況になってきています。
私は、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが近い将来インターネットによるコミュニケーションに〈完全に〉とって代わられるということは、おそらくないだろうと思っています。しかしそれでも、それぞれのSNSの特徴をよい形で活かすピア・サポートのやり方が試されるのも、決して悪いことではありません。大切なことは、それらひとつひとつの試みを報告し吟味することで、将来に活かすことだろうと思います。

いまピア・サポートへの社会的な関心や期待は、これまで以上に高まってきています。そのような時代であるからこそ、ピア・サポートのどこが本来のよさなのかを私たちが忘れてしまわないような、いわば「ブレない枠組み」が肝要であり、まさにそのために「物語」という言葉を用いてきたわけです。そのうえで、先に述べたような時代の変化にともなう課題についても考えていくことが、これからは大切になってくるでしょう。私たちの社会において、「ピア・サポート」が、単に「素人」だからという理由で専門的援助の「補助」もしくは「残余」として位置づけられるのではなく、病いをもつ人にとって基本的な重要性をもつものとして、ふさわしいだけの評価と敬意をはらわれるような社会になることを心から願っています。(終)

伊藤 智樹 氏 プロフィール

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。現在、富山大学人文学部人文学科社会文化コース(社会学)准教授。

■著 書

『ピア・サポートの社会学』(編著/晃洋書房 2013年)、『セルフヘルプ・グループの自己物語論』(ハーベスト社 2009年)、 『〈支援〉の社会学』(共編著/青弓社 2008年)

※伊藤先生の活動研究については『まねきねこ』 第23号「WAVE」でもご紹介しています。  ぜひご覧ください。
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